現代町家にはいくつかのルールがあります。
構造のこと、設計のこと、部材のこと、山のこと…
ルールといっても堅苦しいものではなく、取り組むみんなの「決めごと」のようなものですが、これが現代町家を現代町家たらしめているものです。
現代町家は、部屋を組み合わせた「間取り」でプランするのではなく、「場所」をプランニングします。
そのための構成要素が、「ベース」と「ゲヤ」です。
ベースは居住空間(くつろぐ、食べる、寝る)、ゲヤは補助空間(玄関、水回り、隠れ家等)を構成します。
ベースは4メートル、5メートル、6メートルのスパンで構成される「ベースマトリクス」から選択し、ゲヤは最大スパンを3メートルとするなかで自由に展開します。
現代町家では、通常木造住宅に使われる正角材(断面が正方形の材)ではなく、120ミリ×240ミリの平角材を「メインスケルトン」として、柱と梁に用います。
4隅の通し柱とそれをつなぐ8本の梁は、120×240ミリの平角材で構成されます。材のアイテムを絞り込むことで、木材の産地である山と協働し、計画的に在庫することが可能になります。
平角材を用いることで、胴差接合部の断面欠損を大幅に低減できます。
下図は、120角の柱と、120×240角の平角材の、胴差接合部の断面欠損のイメージ図です。120角の材では、材の断面積に対して接合部の欠損が大きく、それに比較して平角材では欠損部の比率が少ないことがわかります。
耐力壁とは、建物に風や地震などによる力がかかったときに、水平力を支持するための壁です。
プランをつくっていくと、ついつい壁が邪魔になり、構造上必要な壁が不足してしまう、ということになりがちです。
現代町家では、ベースの各辺で1/3の耐力壁を設ける、というルールがあります。プランニングの際に、このことを意識して行ってください。
このルールに則ってプランニングした上で、壁量が十分かどうかを、構造計算によって確認します。
現代町家で行う「許容応力度計算」とは、建物の荷重を想定して応力を算出し、それぞれの部材がそこにかかる応力に耐えられるかどうかを算出するというものです。
木造で2階建て以下の住宅の場合、現在の法律では構造計算が義務づけられていませんが、確かな構造を持っていることは、どんな住宅にも必須のことと考えて、現代町家は全棟で許容応力度計算を行い、建物の構造を確認します。
家をつくるための木は、人工林で育てられます。人工林とは、密植し、間伐するという独特の循環システムを持っています。たくさんの苗木を植え、成長にあわせて必要な手を掛けることで成り立つ森なのです。
しかし、外国からの木材の輸入が自由化されると、9割以上あった木材の自給率は2割程度まで下がってしまいました。このことで、林業経営が成り立たなくなり、各地に放置林が広がりました。
健全な森が失われると、シカやイノシシが里に下りて被害をもたらしたり、木が根付かず、草が育たない森からは、表土の流出による川や海の生態系の破壊、保水機能の低下による水害の原因などを招きます。
健全な森が失われることは、林業関係者だけの問題ではなく、私たちみんなの生活にも深く関わっていることなのです。
こうしたことから、「現代町家」では、木材を選ぶときに、性能や価格だけではない、新しい選択眼を持つことにしました。
放置林(線香林)の木は用いない
車で山道を走ると、放置された森が多いことに気がつきます。登山やハイキングで山を登ると、稜線に出るまでは、鬱蒼とした森を歩かなければなりません。
スギやヒノキなどの人工林は、本来人が手入れをすることで成り立ってきたものですが、国内林業が衰退し、除伐・間伐などの手入れがされていない放置林が増えてしまったのです。木々が混み合い、太陽光が林内に届かず、鬱蒼として暗く、木の生育が妨げられています。まるで線香のようだ、ということで、こうした森林を”線香林”と呼びます。
健全な森を取り戻すには、どうしたらいいのか。それにはまず、お日様のめぐみを林内に招くことです。お日様が林内を照らすようになると、森は変わります。
皆伐の山の木は用いない
山道でもうひとつ気がつくことは、”坊主山”が増えていることです。木が全部切られて、丸裸になった山です。これは、山にまったく木がなくなってしまうので、雨が降ると土砂が流れ出し、水害を起こす危険性が大きいのです。また、皆伐してしまうと、新しく木を植えるにも面積が大きく、コストがあわずに丸裸のまま放置されている例が少なくありません。いっぺんに伐採するので、確かに効率はよいのですが、環境に与えるインパクトを考慮しない皆伐は「あとは野となれ山となれ」という無責任さを免れません。森作りは長いスパンの中で考えるべきであり、一時的によければいいというものではありません。
切り捨て間伐の山の木は用いない
人工林は密植し、成長に伴って間伐をしながら木を育てていきます。間伐は必ず必要な作業ですが、切った間伐材を搬出するとコストがあわず、山に放置することがあります。これを切り捨て間伐といいます。出材されず、山に放置された間伐材は、材料としてつかわれないのはもちろん、CO2を吸着することもありません。人工林の材は、出荷して流通させていくことで成立するシステムです。出材できるはずの木を切り捨て間伐することは、そうした林業の循環サイクルを壊してしまうことになるのです。
高密度作業路網に取り組む森の木を用いる
植え付けしたあとも、山のお手入れは年々いろいろあります。その作業をスムーズに運ぶための道が作業道です。大きな作業道は、大雨が降ると路肩の決壊・法面の崩落を招きやすく、その維持管理にコストがかかります。作業道は広い道である必要はありません。法面の高さをおさえ、道の上からも下からも作業ができます。小さな道は、路面排水が適切で、雨に強い作業道です。こうした作業道を高密度に網の目のようにした「高密度作業路網」は、「育てる林業」のために欠かせない条件です。