自生種の樹木や草花が次々に「絶滅危惧種」に指定されるなかで、家の庭を「種の保存」をはかる最前線にしようという試みで始めた〈一坪里山(ひとつぼさとやま)〉。そこでは、地域固有の自生種が育ち、小さな水槽の中で、メダカが元気に泳いでいます。
工務店のモデルハウスの庭では自生種の樹木や草花を植え、いずれ〈株分け〉できればと、丹精込めて育てています。
「一坪里山」で、一番大切にしていることは、その地域に自生している草花を植えて、育てることです。ということは、その地域にどんな自生種があるのか調べなければならず、それを「株分け」して貰う必要があります。問題は、園芸店も植木屋さんも扱っていないことで、どうやって見つけたらいいか、そこが最初のハードルです。
そこで、各地の自生種の草花が置かれた事情について、少しだけ解説しておきます。
環境省が発行している「植物レッドデータブック」によれば、現在、1665種類の絶滅危惧植物がリストアップされています。
兵庫県の工務店が調べてみたら、同県の2003年の調査では785種類だったものが、2010年の調査では946種類に増えました。この7年間で161種類も増えたのです。激減と言ってよいでしょう。
例えば、福岡県に生息している自生種は117種類に過ぎず、580種類が絶滅危惧植物にリストアップされています。その中には、かつて福岡の水田にふつうに見られたナンゴクデンジソウも含まれています。四葉のクローバーのような葉をつける、水生シダの一種です。その葉の形が「田」の字に見えることから「田字草」の名がついています。福岡の工務店は、この水草を池で育てています。
「生物多様性」とは、多種にわたる生物種と、それによって成り立つ生態系の豊かに、バランスが保たれている状態を言います。
地球上には、自然林や里山林・人工林などの森林、湿原、河川、サンゴ礁など、さまざまな環境があります。地球上の生き物は、およそ40億年もの地球の進化の中で、環境に適応することで、多様に分化しました。
生息する地域によって、体の形や行動などに少しずつ違いがあります。「遺伝子の多様性」と呼ばれています。
自然が創り出した、この多様な生物の世界を総称して「生物多様性」と言うのです。つまり「生物多様性」とは、その土地に自生していたものを、しっかり保存することが基本なのです。
ある草花が絶滅すると生態系そのものが脅かされます。
春の七草も、秋の七草も、櫛の歯が欠けるように身近な環境から失われて行っています。それはそのまま、私たちの身近な環境の劣化を意味しないでしょうか。
ランドスケープの設計者として知られる田瀬理夫(プランタゴ)さんは、このようなことは、ここ30年来のことで、除草剤が大量に散布されるようになってからのことだといいます。
そして、日本中に外来種の草がはびこるようになりました。何千年の歴史をかけて生成されたものが、あっという間に変わってしまったのです。
田瀬さんによれば、外来種の緑は濃くて、在来種の色とは異なるそうで、それは広い野原でみると、よく分かるそうです。
そのことは、日本古来の野原の色が失われていることを意味します。日本人の色彩感覚のDNAに狂いをもたらすことになります。
草木染(野山染)の色に懐かしさを呼び起こされるのは、ほんらいの日本の色だからです。最近の若い人は、外来種の濃い緑しか知らないので、そういう感慨さえ起こらないのかも知れません。これはまことに深刻なことです。
野草は、除草剤を使っている田畑に育ちません。道も川もコンクリート化が進んでいます。各地の市民公園には、いろいろな草花が植えられていますが、その地域の自生種の草花ではありません。道路の分離帯など、空き地という空き地は外来種に支配されています。
どの自治体も「緑を大切に」というキャンペーンを張っていますが、その「緑」は、全国に流通される大量に栽培されたものです。
真に自生種の樹木や草花を残す道は、現実問題、もう各個(戸)の庭しか残されていないのでは、と田瀬さんはいいます。
たとえば、建築専門誌が組む「緑の特集」号に掲載されているリストのほとんどは、この流通する「緑一般」であって、地域性は省みられていません。それがこの国の緑の状況です。
各戸が「一坪里山」をつくることで期待できるのは、一番大切なお手入れです。せっせと自生株を育てるのは手が掛かります。外来種がはびこったら草刈りしなければなりません。そのようなきめ細かなことは、行政はやりません。しかし、各戸の住人が野草に目覚めたら、それを育てることは歓びに変わります。
リビングの前のデッキで、せっせと育てた草花を庭に移し、そうしてたくさん育ったら「株分け」し合って地域に広めるのです。
この取り組みでいいのは、今のところ、あまりお金が掛からないことです。貴重種の昆虫には、とてつもない高値がついていますが、まだ野草の世界はそんなふうではありません。自生種の樹木も、
古い神社や仏閣に足を延ばして、巨木から実生(みしょう)を拾い、それを小鉢に入れておくと芽を出してくれます。
「一坪里山」の考え方を基本に植えられた、120種を超える“博多町家”の樹々たちです。名前とともに、一部、その姿を写真でご紹介します。春夏秋冬を重ね、日々成長を続ける緑。
★常緑(29種)
アセビ/アラカシ/イスノキ/イヌツゲ/ウラジロガシ/クスノキ/クチナシ/クロガネモチ/コジイ/シキミ/ソヨゴ/タブノキ/タラヨウ/ナナミノキ/ネズミモチ/ヒサカキ/ヤブニッケイ/ユズリハ
★落葉(36種)
アワブキ/イヌビワ/ウリハダカエデ/カマツカ/キハダ/キブシ/クリ/コゴメウツギ/シャシャンボ/シロドウダン/タンナサワフタギ/チシャノキ/チドリノキ/ツノハシバミ/ツリバナ/ハギハナイカダ/ベニドウダン/マルバアオダモ/ムラサキシキブ/ヤマブキ
★アカガシ
★イチイガシ
★カゴノキ
★サカキ
★シロダモ
★シロモジ
★センリョウ
★ノイバラ
★ヒメユズリハ
★モチノキ
★ヤブツバキ
★アオハダ
★アサガラ
★アブラチャン
★イロハモミジ
★ウメモドキ
★クマシデ
★ケンポナシ
★コハウチワカエデ
★コバノガマズミ
★ゴンズイ
★サンショウ
★タラノキ
★ナツハゼ
★ヤブムラサキ
★ヤマコウバシ
アオハダ/アブラチャン/イヌビワ/ウメモドキ/オトコヨウゾメ/カマツカ/コマユミ/サカキ/サンショウ/シャシャンポ/シロモジ/センリョウ/タマアジサイ/タラヨウ/ナツハゼ/ニシキギ/ノリウツギ/バイカウツギ/ハナイカダ/マユミ/ヤマアジサイ/ヤマハゼ/ユキヤナギ/ユズリハ
ウツギ
クチナシ
クロモジ
ゴマギ
ダンコウバイ
ハクサンボク
ヒメウツギ
ムラサキシキブ
ヤマコウバシ
ヤマブキ
アラカシ/イチイガシ/クロガネモチ/コジイサカキ/シロダモ/ソヨゴ/ネズミモチ/モチノキ
イスノキ
タブノキ
ナナミノキ
ヤブツバキ(新芽)
ヤブニッケイ
イタビカズラ/キヅタ/コバギボウシ/ツルコウジテイカカズラ/アゼターフ/ノシバ
コウヤボウキ
ジャノヒゲ
ヤブコウジ
ヤブラン
ランドスケープ設計/田瀬理夫(プランタゴ)
宇宙飛行士の若田光一さんが、137日ぶりに地球に戻ってきて、ハッチを開いて感じたのは「地球の草の香りだった」といいました。
そうなのです、野に満つる草は地球の香りなのです。今のところ、地球以外に草が咲いている星は、見つかっていません。自生する草も樹木も、われわれの命そのものを表しています。
「5×緑」を利用して、「一坪里山」をつくる
「5×緑」とは、土木工事の世界で<フトンカゴ(GABION)>と呼ばれる金網でつくった直方体のカゴのなかに人工土壌「アクアソイル」を入れ、植栽をほどこしたものです。
上部のみの一面緑化ではなく、4側面も緑化できるようになっていて、ヘビイチゴ・スイバ・コウヤワラビ・ナデシコ・ゲンノショウ・コノコンギク・オオバコ・ワレモコウ・クサボケ・ケマルバスミレ・ミソハギ・コハコベ・カタバミ・オニタビラコ・ヤブカンゾウ・ツメクサ・コバキボウシ・ヒメラブラン・アザミ・ギボウシ・チガヤ・カキドオシ・オカトラノオ・ノカンゾウ・ハハコグサ・フキ・ノリウツギ・アキノキリンソウ・キキョウ・オミナエシなどの草花がセットされています。
この栽培は、福島県の白河などで行われていますが、たとえば中部地方では育てられていません。育てられていない地域では、それを見つけ出し、移植して育てなければなりません。
これを進めるためには、正しい知識が必要です。町の工務店ネットは、「5×緑」と提携し、田瀬理夫さんを講師にして勉強会を開くことになりました。家だけでなく、「野草に目覚めよ!」ということで「一坪里山」に取り組みます。
小さな水槽でメダカが生き続けるわけ。
水槽には土が入っています。その土には微生物が生きていて水を浄化してくれます。太陽に照らされると水は蒸発しますが、通常は雨水で補充されます。水が不足したというときだけ、汲み置きした水道の水を加えてください。