「間取り」から「場所」の設計へ

これまでの家づくりは、ご家族の要望をお聞きして〈間取り〉にまとめる方式でした。
しかし、この方式だと部屋どうしの連なりに欠け、小部屋ばかりが多くなり、家族の生活が変化すると、何とも住みづらい結果を招いていました。

また、この方式では、敷地全体を家と考える現代町家の設計術が活きません。切れ目のない〈場〉の展開が、この設計術の最大のポイントだからです。

では、そもそも住まいの〈場〉とは何なのか?

ここでは〈坐る〉〈腰掛ける〉〈寝転ぶ〉ことを取りあげ、それぞれの〈場〉の設計について見てみます。

坐る

和室で〈坐る〉というと、キチンとした印象が頭に浮かびます。
ところが和室に〈寝転ぶ〉というと、ゴロ寝のイメージが浮かびます。同じ和室でも、両者はまったく性格が異なります。

ソファーでリラックスここでは〈坐る場〉を、ひとまず〈寛ぎの場〉と設定してみます。リラックスできる〈場〉は、住まいに求められる基本的要求です。家に帰ると、室内着に着替え、肩のチカラを抜いてビールを飲んだり、煎餅を齧ったり、好きにし
ていい場。毛糸を編むとリラックスできる人もいます。クラシック音楽を聴いて寛げる人もいます。ストーヴに薪をくべると心が和む人もいます。
ハッキリしているのは、立っているより、〈坐る〉方がリラックスできることです。どこに、どんなふうに、一番リラックスできる〈坐る場〉をつくるのか、それを見つけるのが〈坐る場〉の設計です。

腰掛ける

パソコンをする〈腰掛ける〉ということで思い浮かぶのは食卓です。リラックスする〈坐る場〉より座位は高くなります。
リラックスして食事するということはありますが、食の行為は、少しばかり緊張を強いられ、それが座の高さにあらわれます。
また食卓は、家計簿をつけ、洗濯ものにアイロンを掛ける作業の〈場〉として利用されます。
最近、主婦でパソコンを楽しむ人が増えてきました。朝仕事が一段落するとパソコンに向かいます。ホッとできるひとときです。
しかし、食卓を片づける前にパソコンに向かいたい主婦もいます。そんな人にとって、食卓は決して好ましい環境ではありません。食卓には匂いも残っています。そんなわけで、食卓とは別に〈腰掛ける場〉を望む人が増えてきました。

食事をする〈腰掛ける場〉は子どもの勉強場所にもなり、ご主人の書斎にもなります。
しかし、食卓が書斎の代替だと、食事時間になるとパソコンを片づけなければなりません。これはイヤなことです。
かくして、〈腰掛ける場〉を別に設けるのが、今の流れになっていて、住まいの一番いい場所に設ける人もいます。そこで飲むコーヒーは、食卓に腰掛けて飲むより、きっとおいしいでしょうね。

寝転ぶ

寝転ぶゴロリと横になる〈場〉です。最近、二畳、三畳といった小さな和室を望む人が増えていますが、ある人はそれを、「マンガ喫茶の恋人どうし」に喩えました。恋人どうしなのに、目を見つめ合い、語り合うことなく、二人してマンガに夢中になっている状態に似た過ごし方が、小さな部屋の効用だというのです。
現代町家の設計システムを提唱した建築家の趙海光さんは、このスペースを”隠れ家”と呼びます。寝転んでマンガを読み合ってもいいし、女が一人で泣ける部屋であってもよく、小さいけれど、いろいろなことを受け入れてくれる部屋だと言うのです。
本を読む立って半畳、寝て一畳、畳は人体寸法を基本にしています。このような床材は、世界的にも大変ユニークです。フランスの知日家のあいだでは、日本人並みに会話が上手くなることを「タタミゼ」というそうです。
畳は、吸湿性・保温力・吸音力があり、弾力性に富んでいます。
畳は、座具になり、からだを横たわらせるベッドにもなり、不思議な”家具”といえるでしょう。

「火を愉しみ、火を囲む場」「食を作り、食べる場」

日に干す場や、収納する場など、どういう〈場〉を、どのようにプランするか、設計って、そういうことだと考えています。

イラスト:小野寺光子


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